七つのお祝い
永岡京的

――うきちゃんは、死んだんよ?
 うそや……。
――うきちゃんは、亡くなったんよ?
 うそや……だって、うきちゃん、うちの隣にいっつもおるもん。

――通りゃんせ通りゃんせ 此処は何処の細道じゃ 天神様の細道じゃ
  ちょっと通して下しゃんせ 御用のないもの通しゃせぬ
  この子の七つのお祝いに お札を納めに参ります
  行きはよいよい 帰りは怖い
  怖いながらも通りゃんせ 通りゃんせ……

 しゃなり……しゃなり……と、白無垢の行列。静かに、雪のあぜ道を進んでいた。その先頭を進むのは、体格の良い男性達。彼等の肩には、小さな小さな棺が。  やがて村の共同墓地に運び込まれ、朗々と坊主の読経が響く。多くは雪に吸い込まれ、参列した村民の心に吸い込まれ。
――ええ子やったのに……
――優しい子やったのに……何であんな子が……
――神さんもヒドイ事しなさるわ……
 すすり泣く声の合間に、少女はいた。
――何で、うきちゃん埋めてまうん? うきちゃん目ぇ覚ましたとき、うちおらなんだら泣きよるよ? なぁ、何でなん? 何でうきちゃん埋めてまうのん?
――さきちゃん、うきちゃんな、死んでしもたんえ……
――うきちゃん、死んでしもたん? 何で?
――うきちゃんな、ご飯食べれんようになってもてん。ほんで死んでしもてんよ……
 優しく、静かに言い聞かせる母親。死んだのは『うき』、生き残ったのは『さき』。この五歳の双子の姉妹は、生き別れてしまったのだ……。
 葬儀が終わり、村にも静けさが戻った。もっとも、この数年続く冷害で、村の住人は、もはや減る一方だったが。
 その日の食うにも困る寒村。子どもの数は、極端に少なくなっていた。

――うきちゃんうきちゃん、あんな、うちな、鞠つきすんねん。うきちゃんも、一緒にやろ?
 外は雪。仕方なく子どもは屋内で遊ぶ。この日のさきも例外ではなかった。 ――いちじく にんじん さんしょにしいたけ ごぼう むかご、なつめにやむいも くまいも とうが……
 てんてんと鞠をつきながら、さきは謡っていた
――さきちゃん、お唄、うまいねぇ
――ほんま? おおきにぃ
 勝手口から顔を出した近所のおばさんに誉めてもらい、さきは嬉しそうに笑った。
――ほんに、ええ子やねぇ、さきちゃんは
――おおきにぃ。せやけど、うきちゃんの方がお唄うまいし、ええ子やで? なぁうきちゃん?
 おばさんはぎょっとした。さきは、誰もいない場所に向かって笑いかけたのである。
――さきちゃん、うきちゃん、死んでしもてんで?
――? うきちゃん、ここおるで?
 中から出てきた母親も、これを聞いて驚いた。
――さきちゃん、うきちゃんは……
――うきちゃんな、こないだ埋められてもたけど、今日朝起きたら、うちん布団に一緒入っとったよ? うきちゃん、いつの間に帰って来てたんやろね
 母親とおばさんは、顔を見合わせた。

――なぁあんた? さきがな、おかしい事言うねん
――何や、何言うてん?
――それがな、うきちゃんが帰って来た、言うねん
――そんなん言うててんか……まぁしゃぁない、まだ子どもや。死んだっちゅうんが分からんのやろ
――せやかて、あの子、自分の隣に向かって笑いかけよんのやで? 何や怖いわ……

 翌日、さきは外に出ていた。ぎゅっぎゅっと雪を固めて、南天と笹で雪ウサギを作っていた。
――なぁうきちゃん、このうさぎさん、何や、かたち変とちゃう?
 厚い、赤い綿入れを着込んで、さきは言った。ゆっくりとかたちを変えていきながら、雪ウサギは確実にウサギではなくなっていった。
――さき、そろそろお家入りや
――あ、お母ちゃん、あんな、これ見てみぃ?
――何やの? それ
――雪ウサギ。うきちゃんがな、こんなんの方がええって言うん
 母親の顔は、明らかに青ざめた。そして、さきの手からその物体を払い落とすと、
――早よ家入り!
――あっ、うちとうきちゃんのうさぎさんが……っ
――ええから、早よ入り!!
 ぴしゃりと戸を閉め、さきをいろりのそばに置いた。
――ええか、さき。もう二度と、うきの事呼んだらいかんえ?
――何で?
――ええさかい、お母ちゃんと約束してや?
――せやけど……
――あかん。お母ちゃんと約束して。もう絶対にうきの事呼ばんて
――お母ちゃん……分かった。約束する……もう、うきちゃんて言わんから、お母ちゃん泣かんとって? な? な? もう泣かんとって? もう言わんから……
 泣き出した母親を必死になだめながら、何があっても、もううきの事は呼ばないと、さきは決めた。多少の心残りはあったが、それでも、母親の泣くのを見ていたくなかった。
――せやけど、うきちゃん、いっつもうちの隣におんねんもん……
 さきの作った雪ウサギだったものは、降り積もった雪に紛れてしまい、結局ウサギだったのか何だったのか、分からなくなっていた。

 二年の年月が過ぎた。冷害も、あの年が過ぎると、うそのように消え去った。さきは、もうすぐ七歳になろうとしている。
――うきちゃん、うちらな、もうすぐ七歳やねん。神さんトコにな、お参りに行くねんで?
 誰もいない墓地で、さきはうきと話をしていた。二年前に生き別れたはずの片割れ。しかしさきには、『死』というものが、未だ分かっていなかった。さきが埋められてしまってからも、うきはさきの隣にいたからでもある。幼さと無知とが重なり、それは奇妙な光景を醸し出していた。
 くすくすと笑いながら、さきは楽しげに話をしていた。
――昨日のお父ちゃん、おもろかったな
 小さな石の上に腰を下ろし、足をぶらぶらさせて、さきは語った。時折り、顔をさきの方へ向けて。

――なぁあんた、ばちが当たったんやろか……
――せやけど、あの時ああせんかったら、わしらあの冬越されへんかったやろ
――分かってんねん、分かってんねんで? せやけど、さきがあんなんやさかい、もぉ怖ぁて怖ぁて……
――……

 そしてこの日も、さきはいつものように人に隠れて(本人は隠れているつもりだった)、うきと話をしていた。
――ほんでな、けんちゃんな、いじわるばっかしよんねん。もぅうちけんちゃん嫌いや
 ……しゃん……
――……? 今、何か音せなんだ?
 ……しゃん……しゃん……
――何やろ……? 行ってみよか、うきちゃん
 そして子どもは山に分け入った。

――さきぃ!!
――さきちゃぁん! どこやぁ!!
――さきちゃーん!? どこ行ったんやぁ!!
 夜になっても、さきは帰ってこなかった。
――うきが連れていってしもたんや!
 母親は泣いた。その肩を抱きながら、父親は下唇をかんだ。
――あの時、うきを殺さんと、わたしが死んどったら……!
――いまさらそんなん言うてもしゃぁない! 早よさき探さな!
 父親は、泣き崩れる母親を近所の女性に任せ、走り出した。
――さきぃ! どこやぁ!! 出てこぉ……い!! さきぃ!!

 村人の必死の捜索も虚しく、さきはその消息を絶った……。

――さきぃ……!!
 日ごと呼ばれる名前。
――あの時、うきを殺さなんだら……!!
 泣き崩れる母親。父親は、未だ山を彷徨う生活が続いた。

 消沈した夫婦の許に、それはやってきた。
――あんな、さきちゃんな、山の神さんが連れてってもてん。うちな、守ったげれんかってん、ごめんな、お父ちゃん、お母ちゃん……
 それだけ言うと、それは消えた。
 その山の神が住む山は、細く険しい路があるばかりだった。誰が誰を祀ったのか、村人は誰も知らなかった。ただ言い伝えには、その山に立ち入るべからず、しかなかった。
――通りゃんせ通りゃんせ 此処は何処の細道じゃ 天神様の細道じゃ
  ちょっと通して下しゃんせ 御用のないもの通しゃせぬ
  この子の七つのお祝いに お札を納めに参ります
  行きはよいよい 帰りは怖い
  怖いながらも通りゃんせ 通りゃんせ……

 鈴を転がすような音が聞こえたら、すぐにお家に帰って来るんやで? せやないと、山の神さんに、食べられてしまうねんで…………



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TDMH〜俺のHeartをわしづかみ〜 永岡京的 様より。
HPでキリ番を踏んでいただいたものです。
双子をお願いします、と頼んだら、こんなに素晴らしいものをくださいました。的様に拍手です。
こういう雰囲気の作品が自分は大好きなので、幸せな気分になれました。
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追記
永岡京的さんのサイトは閉鎖されました。