〜Die Mad〜

 こんな夢を見た。
 私は縁側に座って、庭を見ていた。
 外は雨が降っていた。それは針の雨で、庭の草木を突き刺して、地面に吸い込まれていく。世界は白く、靄がかかり、庭しか見えなかった。
 私は、ちょっとした好奇心にかられて、手を伸ばした。軒から滴り落ちる玉は、透明の玉だった。ころころと掌で踊る。ころころ転がして、縁側の板の上に置く。玉は少し揺れたが、ぴたり、と止まった。
 外からの微弱な陽光を、その小さな躯で吸収し、板の上に丸い円を描いている。玉を指先でつつくと、円も動く。
 しばらくつついていたが、それも厭きてきた。どうせなら、もう一つ欲しい。できるならもっと。幾つもの玉が織り成す光の円。綺麗だろう。
 また手を差し出す。
「――!」
 痛みが走り、手を引っ込める。見ると、中指先に、赤い玉が浮かんできた。ぷくぷく大きくなって、つぅ……、板の上に落ちる。ぽた……、とは鳴らなかった。こん、ころころ……かつん。赤い、半透明の玉が転がって、透明の玉に当たった。ころころ……。
 赤い玉をつまんで、片掌に乗せる。玉を通った陽は掌に、揺らめく赤い円として現れた。
 綺麗だ。
 中指先を見る。血は止まっていた。押しても出ない。
「……」
 また指を出す。また痛みが走った。引っ込める。血の玉……こん、ころころ……。五つの指に、五つの玉。
 一つの傷からは一つの玉。
 外は針の雨。
 軒の下には透明の玉。
 そして、赤い玉。
 見ると、庭で子猫が跳んでいた。真白の子猫が動くたび、赤い玉が散らばる。転がる玉に飛びついて、それでまた玉が踊る。その周りだけが、真っ赤に染まっていた。
 綺麗だった。
 よろよろと立ち上がり、縁側に立つ。
 猫は気付かない。
 足を出す。痛。下駄を履き、一歩、庭に立つ。全身の痛みに耐える。
 ……ばらばらばら
 地に散らばる赤い玉。綺麗な玉。半透明の玉。
 猫が気付いた。こちらに駆けてくる。そして、私の玉で戯れる。ばらばら、玉はどんどん増えていく。大きい玉と、小さな玉。どちらも綺麗だ。
 しゃがみこみ、手ですくい、天にばらまく。
 きらきら、陽を乱反射。
 綺麗。
 ばらばら……
 玉は増えていく。私と猫がいる限り。
 すくう、ばらまく、すくう、ばらまく。
 猫も踊り狂う。 私も踊り狂う。
 きらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきらきら……

 ――がくん、と膝が折れた。
 踊り狂っていたらいきなり。
 何故だ? 分からない。
 立とうとするが、足は鉛のように動かない。腕も重い。全てが重い。
 首をめぐらすのも辛い。
 そして気付く。猫が動かなくなっていた。大きな瞳を見開いて。手を動かし、触る……冷たい。体も固い。まるで玉みたいに。大きな白い玉細工になっていた。
 ――綺麗だ。
 しかし、その姿を堪能することが出来なくなっていく。目がかすんでいく。どんどん暗くなり、黒くなり。
 でも、大丈夫。私も玉になるのだから。
 もう周りは赤い玉で埋まっている。赤い玉だけではない。 赤い玉に当たった針の雨は、透明の玉になる。赤の玉と透明の玉の海。そこに埋まるのだ。玉細工になった私が。猫の玉と一緒に。
 なんて綺麗なんだろう。
 それを想像すると、とても幸せな気持ちになった。
 そうして、そのまま、私の意識は消えていった。


/


あとがきもどき
憧れませんか、綺麗なビー玉。


/