鏡池

 昔々、未だ地が治まらぬ時、
 深い深い山の奥、底なしの沼あり。
 その沼、里の者より竜が棲むと伝えられる。

 ある日ある時、里長の子、山に分け入る。
 病に伏す母のために、快病祈願の花を摘みに。
 沼の淵で、子、花を見つける。
 喜び勇んで摘もうとし、すべり、沼に落ちる。

 里長、暮れても帰らぬ子を思い、
 里の若衆と捜しに出る。
 山の中ほどまで来る時、
 里に残りし者、長の下に駆けつける。
 曰く、川を捜していた者、
 川上より流れ着いた丸太の上に、
 里長の子、気を失い、載せられているのを見つける。
 里長、慌てて山を下り、子の下へと駆けつける。
 子、怪我もなく、布団の中でまどろむ。

 時は流れ、静かなる里に、
 争いの火の粉、流れ着く。
 近隣の里、ことごとく、大国に併呑される。
 明日にも攻め入られるという時、
 山に分け入る者あり。
 具足を身につけ、鉢がねを縛り、
 長き黒髪を、頭の上で結んでいる。
 腰には刀、腕には、包みを持つ。
 沼まで来ると、その者、包みを解く。
 陽光を反射し、輝く面を持つ鏡。

「もう、わしには必要のないものだ」

 鏡を両手で持ち、差し出す。

「お主が、貰っておくれ。いつかの礼じゃ」

 両手より離された鏡、静かに、音もなく沼に沈む。
 その姿、見えなくなるのを確認し、
 具足のなる音を残し、森の斜面を駆け下りる。

 その後、里と、里長の娘、どうなったのか
 知る者はいない。
 ただ、森の奥深く、全てを映す鏡池が残るばかり。



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あとがきもどき
 戒夢さんキリ番77のお題。鏡より。
 二種類ありますんで、お好きな方へ。絵入りの方は、きっと重いと思います。
 こういう時代のお話は、書いていて楽しいのですが、いかんせん、頭と言うか知識が追いつかないので、なかなかうまくえがけません。
 あ。絵入りの方、もしかしたら字が読みにくいかも。両方読むのが一番でしょうか?


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