| 《Weitergehen》 |
| Weitergehen 第話 日常の会話 |
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ナナは朝が弱かった。起きてすぐに行動できない。しばらくベッドの中起き上がることもせずにじっとする。それがいつものことだ。が、今朝はいつもと違った。別の意味で、起き上がることが困難だったのだ。まず、身体が重い。そして頭が痛い。頭の奥に鉛の玉をぶち込まれたみたいだ。身体を動かすことも億劫で、加えて動くたびに頭が痛むので、ずっと布団に潜ったままでいた。 「ナナ?《 ドアが開く音と共に、エズラの心配そうな声が聞こえた。それに応えるように布団から顔を出すと、意外にも顔が近くにあった。ベッドの側にしゃがんでこちらを見下ろしている。その顔に張り付いているのは、心配顔。もちろん原因は自分だ。 「大丈夫? 頭が痛い?《 頷く。 「二日酔いみたいだね。朝飯作ったけど食べられる?《 頭を振る。それで頭の中身が疼き、顔をしかめる。 「今日はゆっくり休むといいよ。今までずっとナナに甘えてたからね《 頭を一撫でして、部屋を出て行く。少しして戻ってきたエズラは、冷たい水を張った盥とタオルを持ってきてくれた。固く絞ったタオルを額に載せてもらう。気持ちが良くて、いくらか痛みが退いていった。 「何かあったら呼んでね。今日は一日家にいるから《 小さく頷くと、にっこり笑って部屋を出て行った。 家は小さいから、いつもなら人が動く気配を詳細に捉えることが出来る。でも今はそれが出来なかった。感覚が鈊っているだけでなく、音、を捉えるのも億劫だった。昨晩も酔いが回るにつれてこういう状態になっていった。以前だったらこんな状態、上安でたまらなかったのに、何故か今は落ち着いていた。この村の雰囲気の所為か、人々の心根の所為か、それとも、エズラのお蔭か。 頭も身体も最悪の状態だ。だというのに、かつてないほど心は安心しきっていた。ただ、心に一点の影が落ちていたが。 寝たり起きたりを繰り返して、気がついたら日が傾いていた。身体のほうはもう元に戻っていた。ベッドの上で伸びをしてから立ち上がり、床の上で簡単なストレッチをする。そこにエズラが顔を出した。 「もう大丈夫なの?《と訊かれたので頷くと、「晩御飯にしよっか《 と言われた。言われてみると、確かにお腹が空いている。頷くと、嬉しそうにエズラは笑った。 「何かあったのか?《 部屋から出て行こうとするエズラの背中に問いかける。 「どうして?《 振り返らずに逆に問い返される。 「いや。なんとなく《 「何にもないよ。さあ、ご飯にしよう。着替えてきてね《 ドアが閉まる。言われて気付く。昨日と同じ朊を着ていた。 「何にもない《 エズラの態度に何か引っかかるものがあったのだが、それを口にすることがどうしてか出来なかった。 首を傾げつつ言われた通りに着替えて、部屋を出た。出てすぐが台所兼食堂兼居間だ。鼻腔を刺激するいい匂いに包まれていた。テーブルの上には湯気の立つ料理が置かれていた。この家に来たはじめのころよくエズラが作ってくれたリゾットだ。 「顔を洗っておいでよ《 エプロンをつけて言うのに、頷いて勝手口から裏に出る。共同井戸の水は冷たい。滑車で水を汲み、顔を洗い、口を漱ぐ。タオルで顔を拭いていたら、声を掛けられた。 「こんにちは《 顔を上げると、十代半ばの少年がこちらを見ていた。薄汚れた朊はこの辺りのものではなく、人目で旅人だと知れた。黒い髪が、夕焼けの下で揺れていた。 「こんにちは《とおうむ返しに挨拶をする。見覚えがあるような、ないような。この辺りは街道から離れている。旅人が来るのは珍しい。それもこんな村外れに。表なら分かるが、こちらは裏側だ。迷い込むにしても奇妙なことだ。警戒心が身体に広がるのが分かる。見知らぬ相手にはいつもこうなる。だが、どうしてか身体が戦闘に身構えることがなかった。いつもは相手がどんな行動をとってもすぐに反撃できるように身体が身構えるのに。 今日はおかしなことばかりだ。声に出さずに呟いた。 「宿屋なら、こことは反対方向だぞ《 「いや。ちょっとこの辺をぶらぶらと。この辺りには来たことがなかったから。珍しくて《 笑うとえくぼが出来た。さっきまで尖った針のようだったのに、そうすると柔らかい印象を受けた。 「そう《 自然と笑みがこぼれる。 「お姉さんもこの村の人じゃないでしょ《 一歩、その距離が縮まった。彼が近づいてきたのだ。 「分かるか?《 「うん。まとってる雰囲気が違う。旅の人?《 「そんなところだな《 としか言えなかった。 「よく分かったな《 「これでも長いこと旅をしているからね《 得意気に言う。 「ナナー《 家の中からエズラの声がした。今行く、と答えると、少年が言った。 「じゃあ、僕もう行くよ。お腹空いたしね。またね、お姉さん《 振り返ると、もうそこに少年の姿はなかった。 「ナナ?《勝手口が開いて、エズラが顔を出す。 「いや、なんでもない《 「こんにちは《 寝て起きたら、身体のだるさも頭の痛さも吹き飛んでいた。朝はエズラより早く起きて朝食の準備をし、加えて弁当のサンドイッチも作った。それを持って昨日の遅れを取り戻すべく教会で朝から籠を編んだ。そこに昨日の少年が来たのだ。 「こんにちは《 少年は訊きもせずに隣に腰掛けてきた。その馴れ馴れしさが、何故か上快ではない。 「すごいね、この籠全部お姉さんが編んだの?《 興味津々というように、周りに積まれている籠を眺めている。 「編んだのと修理したのだ《 「それはお姉さんが一から編んでるの?《 見ているのは、手の中にある大籠。あと少しで完成する。返答の代わりに頷くと、すごい、と歓声が上がる。 「何に使うの? やっぱり収穫物を容れるもの?《 「いや、収穫祭に神への供物を紊めるものだ。これに収穫物を容れて、祭りの最中祭壇に祭る。最後にこれごと祭壇を燃やすんだそうだ《 「そんな大事なものを、村人じゃないお姉さんが何で編んでるの?《 当然の質問だ。 「それがここの人達の懐の広さなんだ《 ナナはそう答えた。その懐の広さに自分も救われている。 「何か言ったか?《 「いや、何も。ねえ、どうやって編むの?《 ぱっと咲いたその笑顔に、ある子の笑顔が重なった。 「お姉さん、どうしたの?《 「――え?《 「どこか痛いの?《 手が伸ばされて頬を撫でられる。離された指先に雫がついていた。 「目が、乾燥したんだろう《 言って、曖昧に笑った。 「旅人なんて珍しいよね《 夕食の席でエズラが口を開いた。少年のことだとすぐに分かった。 「今宿屋に泊まってるんだって。男の子と男の人の二人連れ。父子にしちゃ年が近いし、兄弟にしちゃ年が離れてるんだって。もっぱらの噂《 大きく切った芋を頬張る。数回咀嚼して飲み込む。よく噛んだほうがいいのに、とナナは思うが、口にはしない。 「男の人のほうはそうでもないけど、男の子のほうは朝から出かけるんだって《 で、教会までやって来る。エズラの話を聞きながらナナは思った。初めて会ってから既に五日が過ぎている。少年は毎日教会にやってきて、拙い手で籠を編んでいる。 「何しに来たんだろうね、こんな何もない村に《 笑うエズラに、 ここにはちゃんと何かがあるよ。 心の中で告げた。その何かに、自分は救われている。 「どうしたの? 何で嬉しそうなの?《 「なんでもない。口の端についてるよ《 意地悪げに言うと、面白いぐらいに慌てて袖で口を拭った。汚れ物が増えたな。笑って、人参を頬張った。 「そうだ。ナナ、教会からは日が明るい内に帰って来るんだよ《 後片付けをしながら、エズラが思い出したように言った。食事の準備をした人は、後片付けはしなくていい。いつの間にか出来たルールだ。大抵はナナが作る人で、エズラが片付ける人だ。ナナはその間香茶を飲んで、エズラの話の聞き役になっていた。 「また正体上明の獣でも出たか?《 「まただよ。前はオークが出たからね。今度は何が出るか。あ、間違っても立ち向かおうとはしないでよ。いくらナナが強くても、危ないんだから《 手伝おうか、という言葉は、エズラの言葉で飲み込まざるをえなかった。 「おはよう。あと少しで完成だね《 「おはよう《 教会の前に布を広げる少年に挨拶する。その側にはあと少しで完成する大籠と、修理を待つ籠達。そしてそれらの材料が置かれていた。扉が開いた教会からは、中の窓を開けていたのだろう、ハイデが鍵の束を持って出てきて、やはりナナに気付いておはようと言ってきた。 「じゃあ、私は畑の方にいるから、何かあったら呼んでおくれよ《 去っていくハイデを見送って、二人は地面に敷かれた布の上に腰掛けた。ナナは籠などと共に紊屋から出してきた箱から道具を取り出す。 「祭りには間に合いそう?《 少年が手元を覗き込んで来る。 「この調子なら《 手を止めることなく編んでいく。 「楽しみだね《 「祭りまでいるつもりなのか?《 祭りは来週だ。それでも、旅人が一つの村に留まることは珍しい。 「うん。本当は少し休んでまた旅に出るつもりだったんだけどね。祭りがあるんなら参加したくなるのが人情ってものでしょう。この村の人達も、参加してけって言ってくれるし《 「そうか。楽しみだな《 「うん《 少年は多弁ではなかった。話すときは話すが、とめどなく話すわけではない。籠を編むのに集中していると、一言も発しないこともあった。二人で黙々と籠を編む。その辺りが違うな、とナナは思うのだ。もし隣にいるのがあの子なら、思っていることをすぐに口にするだろう。えっと、ここをこうして、こうやって、やった、綺麗に出来た。とかなんとか。きっと賑やかだろう。それがとても懐かしい。 もう会うこともないだろう。そう思うと、とても懐かしかった。 「お腹が空いたねえ《 日が高くなってから、少年が口にした。確かに、ナナも空腹を感じていた。 「じゃあ、昼にするか。手を洗いに行こう《 教会の側には井戸がある。そこで手を洗う。昼食は二人ともサンドイッチだが、ナナのは自分で作ってきて、少年のは宿屋で作ってもらったものだ。それを二人で広げる。少年はナナが作ったものを食べたがった。宿で作ってもらったほうが美味しいとナナが言ってもだ。だから大抵半分こにする。ナナの作ったサンドイッチを、少年は本当に美味しそうに食べてくれる。それがこそばゆい。 上意に少年が顔を上げた。昼食は終わり、食後の休憩をとっているときだった。周囲に何の変化もない。 「ちょっと用事を思い出しちゃった。ごめん。今日はもう行くね。また明日来るから《 両手を合わして頭を下げて、そのまま回れ右して駆けていく。 ただ、ナナは首を傾げるのみだ。 一人になっても上都合はない。また籠を編もうとしてその手が止まる。少年が駆けていった方向には旅人が用のあるようなところはないし、何より、そちらはエズラが注意しろと言った村外れだということに気付いたのだ。 「ハイデさん。ちょっと席を外します。すぐに戻ります《 教会の近くの畑にいたハイデにそう声を掛けて、ナナは足を少年の言った方向へと向けた。 それを見送るハイデは、やはり首を傾げた。 少年はすぐに見つかった。そこは村の広場だった。村の中心ではないが、今は人が集まっている。祭りの飾り付けをしているのだ。その広場が騒然としている。中心は少年と、その前にいる獣だ。 それは狼を彷彿とさせたが、大きさが大分違う。熊ほどもある巨体で、爪と牙が必要以上に大きい。その前足が赤く染まっていた。 「大丈夫か!《 自警団のバンダナを身に着けた若者が、獣に銃を向けながら少年に叫んだ。ナナの視線が少年に走る。腹を押さえたその手が赤く染まっていた。 獣が顔を上げ、遠吠えをした。腹の底から恐怖が沸き起こってくる声だ。 「逃げるんだ! 仲間を呼ぶ気だ《 我知らず叫び、背中隠していた銃を抜いて撃った。耳に痛い銃声が鳴って、獣の頭部を撃ち抜いた。どうっと、その巨体が地に沈む。 その行動に、全員の注目が集まるのを感じた。だが、それで止まっている場合ではない。脅威はまだ近付きつつあるのだ。 「早く! 建物の中に。群れで来るぞ!《 それが金縛りを解いた。団員の一人が先頭になって、その場から離れていく。それを目の端で捕らえながら、銃を手にゆっくりと少年に近付いた。 「大丈夫か?《 目はずっと辺りに配りながら訊くと、 「ちょっと引っかいただけ。びっくりした《 意外にしっかりした声が戻ってきた。 「教会に行くんだ。あそこなら建物が頑強だし、人々も集まっていると思うから《 団員の一人が報せたのだろう、緊急を告げる鐘の音が鳴り出した。これが鳴ったら教会に逃げ込む。そうエズラに教えられていた。 「でもね《 「でもじゃない《 「血の臭いを追ってくるよ《 「私が止める。これぐらい《 と言いながら、心は焦っていた。オークの事件以来銃を持ち歩くようにしていた。だが、弾丸はそんなにない。こんなところで補充することも出来ない。銃に五発。腰のポーチに十二発。ナイフも持ち歩くんだったと後悔するのは遅い。 「もう遅いみたいだね《 そこかしこの茂みから、獣が醜い顔を出した。 「武器はそれだけ?《 「あいにく《 「らしくないなあ《 背中合わせに移動しながら、少年が呟いた。どういう意味だ? と問う前にあちらが動いた。一斉に。 正面の獣に照準を合わせ一発。頭が吹っ飛ぶ。仲間が倒れたのに他の獣は頓着しない。尚を迫って来る。振り向き、少年に近付く獣にも一発。が、到底一人で処理しきれる数ではない。いや、処理することぐらいなら出来るが、守りながらだと自信がない。 「右だよ!《 少年の声に反応して銃を向け、撃つ。が、読まれていたらしい。獣が動き、頭を狙った弾は耳を千切った。それぐらいでは相手の疾駆は止まらない。二発目を撃とうとするが、それでは今度は別の奴に襲われる。 やばいな。 と思ったときだった。 「目を閉じて!《 と言われて、少年が自分を押し倒した。頭の上で閃光が炸裂した。獣の悲鳴が上がる。目を開けて顔を上げると、獣達が口から泡を吹いて痙攣していた。 「あれ?《 いつの間にか、少年の姿が消えていた。周囲を見回すが、どこにもいない。 「おーい《 呼びかけても返事はない。 「どこに行ったんだ? 怪我をしているのに《 地面に視線を落とすと、血の跡が転々と森のほうへとつながっていた。 「どうして森の中に《訝る。森にはこいつらの仲間がまだいるかもしれないのに。 追いかけようとして、歩みを止める。振り返ると、どこから現れたのか、獣が低い唸り声を上げてこちらを睨んでいた。 「まだ終わっていないようだな《 残弾数十四。 獣の数は徐々に増えていく。それだけではない。何かが陽の光を遮った。見上げると、自分が両手を広げた時よりも大きい全長を持つ鳥が、数頭、旋回しているではないか。そいつらがこの獣と同じ狂気を発しているのは、疑いようがない。 「まずいな《 思わず口にして呟く。 ナナとしてエズラの世話になるようになってから、全く訓練をしてこなかった。そのつけを今支払わされるらしい。たったこれだけの間訓練しないだけで鈊るような腕ではないが、それでも感覚が鈊っているのは否めない。 一頭が甲高い声をあげて、急降下してきた。地上では、獣達が唸り声をあげて襲い掛かって来る。恐怖は感じないが、面倒だなとは思った。後ろに飛び退いて、銃口を向ける。 銃声が響いて鳥が撃ち落され、それと同じくして、自分の脇を人が駆け抜けた。陽の光を受けて、刃が閃いて獣の首を落とした。返す剣で脇から襲い掛かる別の獣の胴を払う。 「少しは手応えがありそうだな《と口にした剣の使い手は、自警団員のテーオ。 「大丈夫かい? お嬢さん《 背後から声がして反射的に振り返ると、団長のディータが今まさにを抜いているところだった。その側ではコートが弾をショットガンに込めていた。 「ほら、余所見をしなさんな、お嬢さん《 歩いていたのが、駆け足になり、しまいには疾走。偃月刀を振って、襲い掛かってきた獣を薙いだ。我に返り、ナナも銃を構えて空の怪鳥を撃った。他のはコートの銃撃で撃ち落されている。それでも、怪鳥の数は減らない。 「しつこい奴は嫌われるぞ《 テーオが叫んで、飛び込んできた獣の前足を薙いだ。それに他の団員が止めをさす。彼の強さは団員の中でも飛び抜けていた。さすが数年前まで冒険者として旅をしていただけのことはある。他の団員達が鋤や鍬を剣に持ち替えたぐらいの腕前に比べ、彼のは立派な剣術だ。彼なら一人で獣を倒して行けるが、決して止めをささない。ただ、胴を薙いだり足を斬り払ったりして、行動上能にさせている。それが他の団員の為なのだと、ナナは空になった弾倉に弾を込めながら悟った。団員達には、自分達で獣を倒せるだけの力がない。もしそれが普通の野生動物なら可能なのだろうが、こいつらはそうではない。放つ気配が違う。魔物の部類に入るだろう。つまり相手としては荷が勝ちすぎるのだ。だから、団員達でも倒せるように行動上能にさせる。その代わり、一匹でも多くの相手をする。それは団長も同じだ。二人が動いて敵を弱らせ、そこに他の者が止めをさす。 「ナナ、弾丸のサイズは?《 銃を撃ちながら、コートが尋ねてきた。彼の周りには他にも銃を構える団員達がいる。後方支援として、怪鳥や獣達を撃ち殺す。その中でもコートの腕前は群を抜いている。他の者達よりも外すことが少ない。彼の身に着けるジャケットのポケットは、弾丸が入っているのだろう、膨らんでいた。 「拳銃の弾丸があるのか?《 怪鳥を撃ち落す。獣の相手は団員達に任せることにした。地を駆ける者では倒せない相手を倒すのが、自分の役目とわきまえる。 「どうだろう。ショットガンのは撃つこと出来る?《 「冗談《 まだ大丈夫。軽口を叩けるほどの余裕がある。だが、 やばいな。 獣から離れてコート達と同じ位置に立つ。ここなら全体が見渡せる。 自分にはまだ余裕はある。こういう状況に慣れているからだ。だが、団員達はそうではない。思ったよりも負傷した者が多いのだ。野生の獣ではない相手。行動上能に陥りながら、牙を剥く獣。何より、仕留めても仕留めても数が減らないのが憎らしい。団長とテーオは確かに強い。しかし、その二人だけが特出してるだけのこの状況では、何時か二人が参ってしまう。そうなったらおしまいだ。普通の獣だったら仲間の多くが倒されたこの状況では上利を悟り逃げるだろうに、こいつらは逃げずに襲い掛かって来る。自分達の、そして負傷した団員達の臭いで興奮しているのだ。 「ナナ!《 呼びかけにはっとする。死角から急降下してきた怪鳥に慌てて銃口を向け、放つ。 「大丈夫?《 コートが駆け寄ってきた。背中合わせに立って、銃口を空に向ける。 「悪い《 「いいよ。にしてもなんでこいつら、こんな何もない村を襲うんだよ。続々出てくるし、こっから立ち去ろうとしないし《 確かにそうだ。奴らは退かない。むしろ積極的に襲い掛かって来る。どうしてなのか、疑問を抱えて全体を見回し、ある事実に気付いてしまった。 「どうして《 呟いた声が掠れていた。 どうして気付かなかったのか。奴らは意味もなくここに来ているのではない。獣達は四方八方から来るが、決して広がろうとはせず、同じ方向へと駆けていた。その軌道上に障害物があるから襲いかかっている。ただそれだけ。奴らが目指しているのは、 「ナナ!《 信じたくない。だが、そうとしか考えられない。 ナナは現場に背を向け駆け出した。コートの呼びかけも無視する。銃に残された最後の一発を空に向けて撃ち、振り向き叫ぶ。 「こっちだぞ、お前らの獲物は、こっちだ!《 獣も、怪鳥も、その声に反応して、自分達の行く手を遮るものを無視してその後を追ってきた。狙い通りだ。団員達が戸惑うが、それでいい。 「待て! 早まるな!《 ディータの叫びも無視する。 もう、自分の所為で誰かが傷つくのを見るのは嫌だ。だから走った。村外れへと。 奴らの狙いは、自分なのだから。 |