| 16:飛び降りる |
|---|
|
一番最初の記憶は高層ビルの屋上で、私をきつく抱きしめる母の、強風に踊る長い黒髪だった。 私は今、上空四千メートルにいる。富士山よりも高い。 どうしてそんな上空にいるのか、今からスカイダイビングをするからだ。ちゃんとした資格は持っていないからインストラクターの一緒のタンデムスカイダイビングだ。 今日が初めてで、緊張している。 二十分間の遊覧飛行、その後のダイブアウト。五十秒間のフリーフォール。そして、地上約千二百メートルでパラシュートを開いて、十分程空中遊泳を楽しんだ後に着地。全部インストラクターがしてくれる。エアカメラマンに写真も撮ってもらう。ひどい顔にならないといい。 撮った写真は実家の母親に送るつもりだ。笑顔で、青空の中笑う自分の姿を、母親に見せるのだ。見せる必要があるのだ。 あの日、私をきつく抱きしめた母に。 あの高層ビルの屋上からエレベーターで降りて、歩いて地下鉄の駅まで行って、切符を買い、地下鉄に乗り、家に帰った。 母は笑う。 「ことりさんのようにとべるの?」 と瞳を輝かせた私がいたから、今生きているのだと。 私は今、自らの意思で飛び降りて、地上に生還するの。 私が生きている証として。 |
/