| 《Weitergehen》 |
| Weitergehen 第三十七話 年の瀬の祭 |
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一年の終わりはいつもお祭り騒ぎだ。一年を治めてくれた神に感謝と別れを告げて、新しい年の神に迎えの言葉と祈りを捧げる。それが年末から年始にかけて盛大に行われる祭りの意味だ。 一年最後の月である十二月の、その第一日目から祭りは始まる。夜明けとともにホルンが吹き鳴らされ、協会の鐘が高らかに鳴り響く。一週ごとに様々な催し物、儀式が執り行われて、人々は忙しく、しかし賑やかに日々を過ごしていく。しかも今年は千年紀の区切り、新しい一千年の祝福を願う意味も込めて、全てが華やかに進んでいく。街は装飾され、人々は身の丈に合った形で着飾り、それぞれの顔に華やかな笑顔を浮かべている。 今もミサが執り行われた教会から、華やかな人々が溢れ出てきた。王侯貴族ではないから身につけるものこそ質素であるが、その顔には喜びが溢れている。 暗黒紀を経て、世界が立ち直るために費やされた千年だった。しかし次の千年は違う。平和と繁栄の時代となるはずだ。その喜びが人々の顔を晴れやかにしているのだ。 そしてここにも一人、頬を紅潮させて喜色を浮かべる少女がいた。 「綺麗だったね」 と、後ろの同行者に振り返りざま声をかける。 「ろうそくの炎がきらきらしてて、聖歌隊の歌も綺麗だった」 星の粉をまぶしたような笑顔でそう言った少女の腹が、鳴いた。とても賑やかな周囲とは対照的に、その場には沈黙の帷が降りて、そして、 「そう言えば、昼からなんも食べてひんもんなあ」 一人が言うと、 「確か屋台があちらにあったな」 もう一人が広場の方に目を向けた。 その二人に、真っ赤になりながらも少女は言った。 「じゃあ、霧亜、シオン、ご飯にしよう」 「せやね。はよせんと、サリスのお腹が空きすぎて、歌を歌いだすかもしれんしなあ」 霧亜が笑って、シオンも頷いた。サリスはなおも顔を赤くして、 「じゃあ、早く行こ!」 二人の手を取って歩きだした。 外のお祭り騒ぎとは対照的に、その部屋はしんと静まり返っていた。 そこは、球体の内側、のような空間だった。とても広くて大きくて、小さな広場ほどあるだろうか。その球体の、ちょうど等分の半球に区切る水平面に、床があった。それは透けていて、下の球面の緩やかな曲面が見えた。そう、それはまるで澄んだ湖の湖面のようなのだ。そういうイメージを人に与えるのは、なにもその様子だけではない。その床に一歩踏み出すごとに、その踏み出した足を中心に波紋が広がるのだ。一歩、一歩踏み出すごとに生まれては広がっていく波紋の様が、まさに湖の水面であった。 まさに今、まるで花を散らすようにして波紋を生み出しながら歩く少女がいた。早足のその足に合わせて、幾つもの円が生まれては広がっていく。彼女は部屋を横断するようにして、その中央へと向かっていた。中央は、この空間の中心でもある。そこには一抱えほどの蒼い球体が浮かんでいた。それに向かい合うように男が一人、縦長の楕円球を半分刳り貫いたような椅子に腰掛けていた。 その男に、少女は駆け寄ったのだ。 「ラルフ、ラルフ、今日はお祭り」 舌っ足らずな言葉で話しかけると、名を呼ばれた男は目の前の球体から少女へと視線を移した。ついでに、身体も少女に向ける。 「年越し祭。エミリオ、一緒。行ってもいい?」 膝に肘を乗せてきた少女はそう言って、上目遣いで首を傾げた。金の髪が動きに合わせて揺れ、光を散らす。 「エミリオがいいと言ったらいいよ。行っておいで、アグライア」 ラルフがそう言うと、アグライアは春の日差しのような笑顔を浮かべた。そして後ろを振り返り、 「お許し、出た出た」 その言葉に、やれやれ、と頭を振りつつ波紋を広げて近付いてきたのは、濃紺の髪をした少年だった。困ったような笑みを浮かべて、 「全く。ちょっとだけだよ」 アグライアの側に来てその肩に手を置く。それに少女は、わかってる、とぽんと胸を叩いた。 「すみません、ラルフ」 「いいよ、そんな頭を下げないで。エミリオ」 ラルフが笑って首を振る。長い髪が揺れた。 「しかし。こんな時期に……」 「たまには息抜きもいいだろう。アグライアには色々とがんばってもらっているからね」 「うん、ライア、がんばってる」 「……それじゃあ。何かあったら連絡してくれ。すぐに戻るから」 「そんな、ゆっくりしていたらいいよ。ここには他に僕を入れて五人もいるんだから」 言っても、エミリオの眉間のしわは消えない。それに困ったように笑ったラルフは、 「じゃあ、皆にお土産をよろしくね。ね、お使い」 「お使い? するする。ラルフ、何がいーい?」 きらきらと笑顔を浮かべたアグライアに、 「アグライアがおいしそうって思ったものをお願いしようかな」 「任せて!」 ふへへ、と笑うアグライア。二人が手を取り合ってその空間から出てからすぐに、入れ違いようにして入ってきた少女がいた。長い髪を緩やかな三つ編みにした、眼鏡をかけた少女だ。 「許可を出したんですのね、ラルフさん。アグライアさん、とても嬉しそうでしたわ」 「メリル……駄目でしたか?」 いいえ、とメリルは頭を振り、 「とてもいいことだと思いますわ。アグライアさんが嬉しそうだと、周りまで嬉しくなりますもの。本当に、輝く娘、ですわね」 「そう、それなら良かった」 笑う。 「ふふ。先ほど、お土産は何がいい? と訊かれましたわ。木の実の入った菓子パンがいいと答えたんですが、ラルフさんが言ったんですの?」 「ええ。皆にお土産を買ってきてと。そう言わないと、エミリオが納得しないでしょう」 「確かにそうですわね。エミリオさんは生真面目な方ですから。本当に、変わってらっしゃらない」 「それは貴女もですよ、メリル。他の皆も。誰も変わらない」 「……成長していないっていうことですか?」 「ち、違いますよ」 メリルの言葉に、ラルフは慌てて言葉を繋いだ。 「いい意味で、変わっていない、と。まさか、成長していないなんて思ってませんよ」 「冗談ですわ。ちゃんと分かってます……ふふ、ラルフさんもお変わりになりましたわね」 「そうですか……?」 なんとなく自分が情けなくて、ついついラルフの語調は弱くなる。 「ええ。初めてお会いした時は、まあ、何てつんけんした方なんでしょう、なんて、思ったものですわ」 「つんけんですか? ああ、確かにそうだったかもしれませんね」 昔の自分を思い出し、軽い自己嫌悪を感じる。 「でも今は、そうじゃありませんわよ? 皆さんをちゃんとまとめて下さっている」 「まとめるって……別に僕はそんなつもりはないんですけど」 「でも、まとめて下さっている。ここまでやってこられたのも、ラルフさんが皆さんをまとめてくれたお蔭ですわ」 「そんな……照れるな」 思わずメリルから視線を逸らした。 「……今年は千年紀の区切りの年なんですのよ」 途切れた会話の再開は、メリルのその言葉だった。 「きっと外は盛大な祭りをしているんでしょうね。アグライアが行きたくなるのも無理はない」 「――やっと、ここまできたんですのね」 感慨深げに言ったメリルの横顔は、どう見ても年相応には見えなかった。見た目はまだ十代後半の少女なのに、そこに浮かぶ表情は、まるで老練のそれだ。ラルフの顔に浮かぶ表情もそれと重なる部分があった。こちらもまた、まだ二十代前半に見えるのに。 「そう、やっとここまできた」 ラルフがメリルの言葉を繰り返した。 「でも」 「でも?」 蒼い球体を見ていたメリルの目が、沈んだ声になった相手を見た。彼は、まるで睨むように正面の蒼い球体を見ている。 「ここで気を抜いてはいけない。今まで何もなかったっていうことは、これから何かあるかも知れないっていうことだから。きっと、必ず何かある」 「確証があってのことですの?」 「いいえ。僕の勘です。でも――」 「貴方の勘は良く当たる」 言うつもりの言葉を言われて、顔を上げる。メリルが、こちらを静かな目で見ていた。 「買い被りですよ」 「でも、それで私達は何度も危機を免れてきた」 にっこり笑ってそう言われては、ラルフはそれ以上言えなかった。 「では、メリルさん達にお任せします。僕はここでこれを監視してますので」 蒼い球体を指差す。 「それではそうですね、リディアさんとオーランドさんに世界を視てもらって。私はフェインさんと知恵の竜達を歴訪しましょう。と言いつつも、実はもう、皆さん行動を起こされているんですの」 くす、と少女らしく笑う。 「私はそのご報告。私自身もこれから色々と回ってきますの」 「そう……貴女の提案ですか?」 「いいえ。フェインさんの。何か見ておいたほうがいいと」 「で、自分は一番骨が折れることを? らしいですね」 「はい」と嬉しそうに微笑む。 「彼の勘も当たるから。だとしたら……」 「ええ」一転表情が厳しくなる。 「本当に、何かあるんでしょうね」 広場はとても賑わっていた。 秩序だって並んだ屋台の間を、人々は無秩序に歩いていく。笑い、さんざめき、誰もが縫うようにして歩いていく。その中を、サリスは霧亜とシオンを伴って歩いていた。手には、先ほど屋台で買った細長い揚げパン。砂糖がまぶされていて、カリカリして、とても美味しい。 「サリス、そない先に先に行ってもうたら、はぐれてまうよ」 「ごめん……」 足を緩めて、サリスは後ろを振り返る。すぐに霧亜とシオンが追いついてきた。 「サリスは小さいからな。人込みでもするする歩けるんだろう」 「ひっどーい。ちっさいこと気にしてるのにぃ」 「はいはい、二人ともこないとこで立ち止まらんの」 霧亜に諭されて、二人ともそれ以上の言葉を口にするのは我慢した。 「サリス。シオンはどうやら疲れてもうたみたいやから。どっか休めるところに行こ」 「え、そうなの? シオン」 ぶすっとした表情がその答えだった。 「そっか、ごめん。シオンは人込みが苦手なんだっけ」 「サリスが謝ることじゃないよ」 「ううん。気付かなかった私が悪い。確か、あっちに休めるスペースがあったよ」 言って、ぐいっとシオンの腕を取って歩き出す。 広場の一角に、テーブルやイスを置いたスペースが作られていた。その端の空いたテーブルを運良く見つけて、そこに座った。 「今、何か飲み物とって来るね」 イスに座ってすぐにぐったりしてしまったシオンに、サリスは謝罪もこめてそう言った。 「一人で大丈夫?」 「大丈夫。私だって一人でそれぐらい出来るよ、霧亜。じゃ、行ってくるね」 「気いつけてね」 うん、と頷いて、近くの屋台に駆け出す。 それがいけなかった。ちょうど横合いから来た人にぶつかってしまったのだ。 「わ、ごめんなさい!」 転んでしまった相手に手を差し伸べ、 「いーの。ちゃんと前見てなかった、ライアも悪い」 相手に釘付けになってしまった。自分と同い年ぐらいの少女。それぐらいなら周りを見ればいくらでもいる。それは陽光のような綺麗な金髪の所為でもあるし、まるで合わせたような金の瞳の所為でもあるが、別の何かもあるような気がした。が、それが何かは分からない。 「だから、ちゃんと前を見て歩けと……」 少女の背後から声がかけられた。彼女が振り返ったのにつられるように彼女の肩越しにそちらを見ると、いくらか年上の少年が近付いてきた。その目が、驚いたように丸くなる。 「ごめん、エミリオ」 「…………」 「エミリオ?」 小首を傾げる少女がその顔を覗き込んで、それで、 「あ」と声をあげて我に返った。 「どうかした?」 「いや、何でもない……」 と言いつつも、こちらを見る目が何かを探るような目付きで、サリスは胸がざわざわした。 「彼女がぶつかってしまって、済まなかったな」 謝っているような態度ではないが、彼としては充分謝っていることなのだろう、と何故か納得したサリスは、 「ううん。私もちゃんと周りを見ていなかったから」 言いながら、サリスは相手を観察した。 少女は、きっとライアという名前なのだろう。少年がそう呼んでいたから。自分と同じくらい、人間で言えば十二歳ぐらいだろうか。金色の長い髪に、金色の大きな瞳。そして、白い膚。 ライアが呼んでいたように、少年の名前はエミリオだろう。人間でいえば十六歳ぐらい。濃紺の短い髪に、澄んだ蒼い瞳。何となく人間味にどこか欠けているように感じるのだが、ライアを見る目は優しい。 ああ、知っている。不意にサリスは思った。この光景を自分は知っている。でも、彼らが何者なのか、全く分からない。 「サリス、どないしたん?」 「霧亜」振り返ると、同僚がこちらに歩いてくるところだった。 「ちょっと、私がこの子にぶつかっちゃって」 「それは、まあ。えろうすみませんでした」 深々と頭を下げる。 「いえ、こっちもこいつが前もちゃんと見ずに走っていた所為ですから」 「ごめんなさい」 頭を下げるエミリオとライアに、いいえぇ、と霧亜が手を振る。 「この子はほんまに向こう見ずなとこがありますよって」 「もう、子ども扱いしないでよう」 「……その、娘さんですか?」 エミリオが訊きにくそうに訊いてくる。 「え? ややわあ。私、こんな大きゅう子がおるように見えるんやろか?」 「いえ、すみません」 大げさに溜め息をついた霧亜に、慌てたようにエミリオが言うと、 「ふふ。えーんよ。ここには見た目と年がかみ合ってへん人が多いさかい。でも、この子は私の子とちゃうよ」 ぽんぽんとサリスの頭を軽く叩く。 「えと、霧亜とは仕事仲間なの」 「しごとなかま?」 サリスの言葉をライアが繰り返した。 「そう、お仕事仲間」 職場には自分よりも幼い者がいない。だから、自分よりも幼い感じがするライアの相手をするのが、くすぐられるようにサリスには嬉しかった。 「ライアもね、エミリオとはお仕事仲間なのよ」 にっこり笑って胸を張る少女。こんなちっちゃい子がどんな仕事をしているというのだろう、と自分のことは棚に上げてサリスは思う。 「ずっとねえ、一緒に――」 皆まで言う前に、ライアの小さな口はエミリオに塞がれてしまった。 「ライア、約束を忘れたのか?」 「う……ごめん」 しゅん、となってしまったライアに、何故かサリスが居た堪れなくなる。 「あのあの、私」 「いい、気にしなくて。これはこちらのことだから」 サリスがわたわたと弁明しようかと口を開いたのを、エミリオが制した。そのままライアの肩に手を置いて、立ち去ろうとする。 「ま、待って」 「何?」 思わず呼び止めたサリスは、六つの瞳に見つめられて、つい視線を逸らしてしまう。 「何か用か?」 冷たいエミリオの言葉に、サリスは頭が真っ白になりながら、その、あの、と意味不明な言葉を重ねる。呼び止めてしまった理由はサリス本人にも分からなかった。ただ、ほとんど反射的に呼び止めてしまって、それで自分も驚いてしまっていた。だから言葉が見つからない。 「ねえ、エミリオ」 そんなサリスの窮地を救ったのはライアの一言だった。 「ライア、その子と一緒に回りたい」 それに誰もが驚いた。言われた本人も驚いているが、指名されたサリスも驚いた。が、言った本人はにこにこ笑っている。 「ね、ライアと一緒に回って、だめ?」 「だめって……私はいいけど」 答えながら、上目遣いでエミリオの様子を窺う。ライアのほうを向いていて顔は見えないが、焦っているような気配がした。 「ほらエミリオ。いいでしょう?」 「……………………今日だけだよ」 「やったぁ」 諸手をあげて喜ぶと、その場でくるっと回ると、そのままサリスの手を取って意味もなく振り回した。 「なんか、すいまへんなあ」 「いいんです。こっちこそ、ライアが我儘を言って」 「ええんですよ。あの子の周りには同い年ぐらいの子がおらんさけ、あの子もほんに嬉しいんですよぉ」 「たぶん、ライアもそうなんだと思います」 「ほんに、それだけ?」 「――え?」 「あんな、うちら二人だけとちゃうんよ。人込みに酔ってまってなあ、今あっちで休んどるんやわ。その子も一緒になるけど、ええ?」 「え、あ、はい。ライアは、賑やかなのが好きなので」 「う〜ん……それにはちょっと応えられへんかもしれへんなあ」 「あ、これおいしい!」 「こっちもおいしいよ」 空色と金色、二つ並んだ後頭を眺めながら、どうしてこうなってるんだろう、と白色の頭をしたシオンは思った。人込みに酔ってしまって休憩スペースで休んでいた。サリスが飲み物を買いに行って、霧亜もいつの間にか消えていて、そのまま少ししたら、何故か人数が倍になって戻ってきた。初めて見る顔が二つ。それも対照的な。 で、何故かこうやって一緒にお祭り見物をしている。 「気分はどう?」 「だいぶ良くなった。ありがとう、霧亜」 「ん? 私は何もしてへんよ」 ととぼける友人に、シオンは笑って見せた。あれだけ苦しかった呼吸が楽になり、全身を包んでいた気だるさも今はない。治癒系の術が使える彼女のことだ、何かをしてくれたのだろう。 「えーと、エミリオはん、やったよねえ」 自分達から少し遅れて一人で歩く少年に、霧亜が振り向きがちに声をかけた。今までずっと黙っていた少年のことは、シオンも気になってはいた。その得体の知れない雰囲気がとても気になったのだ。それは今サリスと並んで歩いている少女に対しても感じていることだ。 「ここでの年の瀬のお祭りは初めて?」 「いえ、毎年ではないですが、時々」 「今日は賑やかやろう。千年紀の終わりのお祭りやさかい、みんな気合の入り方が違っとる」 「確かに、これだけ賑やかなのは……」 遠い目をするな、とシオンは相手の目を見て思った。この土地に来て、コスモスに入って、様々な人を見てきた。その経験から思う。これだけの目をする者は、それ相応の時間を生きてきた筈だ。長さだけでなく、密度も関係しているが。 「わわ、何あれ!」 サリスの歓声に、思考が中断させられる。顔を上げると、小さな背中が二つ、駆け出していた。それを慌てて三人で追う。 「大道芸やねえ」 きゃあ、と歓声をあげて最前列に立つ二人。広場で行われていたのは、大道芸人のパフォーマンスだった。ジャグリング、ピエロ、歌に踊り。それは子どもの夢を具現化したもの。それを、二人の子どもは目をきらきらさせて見入っていた。一際大きな歓声が上がったのは、ピエロが吐いた炎が蝶の形になって、空に一斉に舞い上がった時だった。 「きれいだねえ」 「うん、綺麗、綺麗」 二人の少女が、くすくす笑って頷きあう。まるで長年一緒にいる親友みたいに。それが当たり前の姿のように見えたシオンは、目を瞬いた。 「ねえ、あんさんら、何者です?」 探るような声で、霧亜が言った。 「と、言うと?」 エミリオがとぼけて見せる。 自分を間に舌戦なんか繰り広げないで欲しい、と思いつつ、シオンは両隣に何も言わなかった。 「あんさんからも、あの子からも、不思議な感じがしますさけ。ま、よう言いひんことやったら、これ以上はなんも訊きまへんけど」 「そうしてくれると助かる。これだって」 「妥協しとるんやから?」 ふふ、と笑う。相変わらず、にこにこ笑いながら相手の隙を突くことをする。 「さすがだな」と呟いた声は、霧亜には届かなかったようだ。思わず顔を向けてしまったシオンは、口元に笑みを浮かべた少年の横顔を見ることになった。見た目に似合わない老練した者が浮かべるようなものだった。シオンの視線に気付いたのだろう、こちらを見上げてきた少年と目が合ってしまい、思わず逸らしてしまう。その行動に自分でも驚く。大抵の場合こちらが負けることはないというのに。 それからずっと大道芸を見ていた。それ以外に視線を送ることが、特に自分の隣に送ることが、出来なかった。 教会の鐘が鳴って時刻を告げる頃、エミリオがライアの腕を取った。大道芸はまだまだ終わりが見えない。 「もう帰るぞ」 言われたほうは不満たらたらといった表情を浮かべたが、それでも不承不承頷いた。大道芸を楽しむ人々の輪から離れると、少女二人は手を取り合って別れを惜しんだ。 「土産も買うんだろう」 「うん……それじゃあね、サリス。また、会おうね」 サリスは勢いよく、首が折れるんじゃないかと思うぐらいに首を縦に振り、 「また会おうね。ね、ライア」 お互いにっこりと笑う。二人が去って行くのを、サリスは手を振って見送った。 「……じゃ、帰ろうか」 振り返ったサリスは笑っていた。 「ほな、そうしよか」 霧亜が笑い、歩き出す。 「今日は楽しかった?」 「うん」 二人の会話を、後ろから聞きながら、シオンはまた振り返った。あの二人が去った方向を。彼等は一体何者なのか、その答えは見つからない。 |