| 《Weitergehen》 |
| Weitergehen 第三十九話 アルケー |
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「お休み」 とリビングの二人に告げて、サリスは自室に引っ込んだ。 「お休みなさい」 「お休み」 遠くか聞こえてくる言葉。それが毎晩無性に嬉しくなる。朝の挨拶もそうだ。こちらが言えばちゃんと返ってくる言葉、それが嬉しい。小躍りしたくなるほど嬉しいのだ。 「寝る前に興奮してどうするの?」 暗闇の中、白い身体が浮いて見える。長い尻尾がゆらゆらと揺れていた。 「楽しい夢を見るためじゃないの?」 ベッドに入りながらそう返すと、 「僕は美味しいものを食べる夢がいいなあ」 と声が返ってきた。こちらは気配こそ感じるが、姿はどうにも見えない。暗闇と同じ色をしているからだろう。 「今日は楽しかった?」 布団に潜りながらだから、声がくぐもって聞こえる。 「うん、楽しかったよ。二人も来れば良かったのに」 「こっちはこっちで楽しんでいたんだよ。ね、銀月」 「そうだね、黒揚羽。人には人の、猫には猫の楽しみ方があるのさ」 そう言って、二匹の猫はサリスの顔の両側で笑った。 「で、今日はいつにも増して嬉しそうだねえ」 「そうかな?」 「気配がとても喜んでいるよ」 「じゃあ、寝られるかなあ」 交互に言われた言葉に、ふふ、と笑う。 どうして嬉しいかは、はっきりしている。あの子達に会ったからだ。同い年くらいの子とあれだけ長くいることがあまりないから、今日のことがとても嬉しかったのだ。でも、もっと別の大切なことがある気がするのだが、それはどうしても分からない。 「それじゃあ、お休み、サリス」 「うん、お休み、銀月、黒揚羽」 「お休みぃ」 「懐かしい顔に会ったよ」そう報告すべきか、エミリオは決めかねていた。難しい顔をするエミリオの前で、アグライアは呑気に笑っている。現在この部屋にはこの二人しかいなかった。ラルフは滅多にあの間から出てこないし、メリルはこちらに帰ってきたら既に出た後だった。リディアとオーランドは自分達が出る前にもう出ていたし、フェインは同じくらいに外に出た。このフロアには自分達七人しか入ることが出来ない。細々としたことは全て自動人形がしてくれるので困ることはない。だから報告するとしてもラルフだけなのだが、それでも迷いが生じる。会った相手が相手なだけに。 「エミリオ、どうしたの? 怖い顔」 不意に顔を覗き込まれて驚く。 「怖い顔をしていたか?」 「してたよ。ここにシワがぎゅーって」 と眉間を指差す。 「なにか難しいことがあったの?」 首を傾げる。アグライアにとっては彼女との再会は難しいことではないのだろう。そういうことに考えが及ばないのだ。エミリオだって一応はそうだ。彼女がこの島で、都市で当たり前のように暮らしていることは知っていた。そうできるようにしたのも自分達なのだ。が、それとこれとは違う。会うつもりもなかったのに会ってしまったこと。それが気になった。 「……元気そうだったよね」 アグライアがにっこりと笑う。彼女のことだとすぐに分かる。 「幸せそうだったね。良かったね」 ああ、と答えて、やはり報告しよう、とエミリオは腰を浮かせた。部屋を出て行こうとするのに、アグライアが当たり前のようについてくる。いつもそうだ。ずっと、あの日自分が選択した日から、アグライアはいつも自分についてくる。まるで、刷り込みされた雛のように。 「ラルフは喜ぶかなあ?」 「喜ぶんじゃないかな。一番気にしていたし、それに、僕達なんかよりもずっと付き合いは長かったからね、彼女とは」 それは好機を得た。 今はまさに絶好の好機である。 日の区切り、 年の区切り、 世紀の区切り、 千年紀の区切り、 あらゆる区切りの訪れは、それだけ壁を薄くさせる。 何事も、区切りのその瞬間が脆いものだ。 だから、それは好機を得た。 今度こそは、今度こそは、下された命令を実行するのだ。 それが存在理由。至上命題。 必ずや、と、それに似合わぬ熱を帯びて、行動を起こした。 その熱は、別の意味を持っていることを知らずに。 「ほら、行くぞ」 部屋に声が響いた。振り向くと、目を輝かせた熾志が戸口に立っていた。うんざり、と思考は嘆息する。 「なんだよ」 「祭りだ祭り。折角の非番だぞ。楽しもうぜ」 お前の場合は食い物が目当てだろうが、と思いつつ、紫晃はソファから立ち上がった。 「あー、勝負から逃げるんか?」 盤面の向こうにいたハリーが、極悪人な顔に極悪人な表情を浮かべて文句を言ってくる。 「仲間からの指名は、断れないだろ」 「不利やからって、逃げるってえのはずるいことなんだぞ」 「こうしたら、俺の勝ちだろ」 手を伸ばして駒を動かした。ハリーが意味不明な悲鳴をあげて、それを背に紫晃は熾志の前に立った。 「いいのか?」 「もう三時間もやってるんだ。いい加減疲れた」 「負けず嫌いだからなあ」 まだハリーは盤面を睨んでうんうんと唸っている。 「どうせどんぐりの背比べなんだ。やるのは時間の無駄だろう」 「洸流。珍しいな、お前も祭りに行くのか?」 廊下に出ると、壁に洸流がもたれて立っていた。ちょうど室内からは見えない位置だ。 「俺が誘ったんだ。だってほら、人数多いほうが楽しいだろ」 「確かになあ……」 含み笑い洸流を見ると、えらい勢いで睨まれた。思わず肩を竦める。 「さっさと行くぞ」言うやいなや、洸流は一人背を向け歩き出す。それを慌てて二人で追った。途中、思い出して紫晃は熾志に訊いてみた。 「翠戒はいいのか?」 「誘ったけど、調べものがあるからって断られた。お土産よろしくだって」 「ふ〜ん……珍しいな」 「いつも固まってるほうが物珍しいだろう」 うんざり言うのは洸流である。確かに自分達の年頃の男どもが、ことあるごとに、つまりは仕事の時もプライベートの時も仲良くくっついているのは、おかしい話である、と紫晃だって思う。思わないのは今自分の前を陽気に歩くガキぐらいなものだ。 「何でこうなってんだろうな」 元々自分は一人だったはずなのだ。それがいつの間にか周りにこんなにも人が増えた。不思議だ。不思議である。 「――あ、こっち、こっち」 エントランスに入ってすぐ、遠くから声が掛けられた。顔を上げると、小さな人影と、それよりも大きな人影が、こちらを向いていた。その小さな影が、大きく手を振っている。 「なんだ、あいつらも一緒なのか?」 これではますますいつものメンバーが揃うことになる。洸流がうんざりと言った言葉に、 「悪いか? 人数が多いほうが楽しいじゃん」 当たり前のことのように熾志は言う。 「ま、いいんじゃないの? 華がないと楽しくないっしょ」 この展開は自分にとっては都合がいい。 「あれ? 翠戒さんは?」 小さな人影のサリスが首を傾げた。その後ろに立っていた大きな人影の霧亜に、紫晃は笑って見せた。が、それはあえなく空振りになる。 「用事があるって。そっちこそ、シオンはどうしたんだ?」 「人込みはもうこりごりって。書庫に行っちゃった」 「一日目には一緒に行ったんやけどね。そん時でもうこりごりらしいんやわ」 「ああ、シオンて人込み苦手だもんな。まあ、しょうがないか」 「それじゃあ行こう。今晩はカウントダウンの花火も上がるんでしょ? 早めにお祭りを楽しんで、後は早く良い場所取らなきゃね」 サリスの言葉で、一向は最後の祭りに踊り狂う街に出た。 「うっわ、やっぱ最後の日だと人の数が違うな」 「シオン来なくて正解だったね。きっと倒れちゃってたよ」 「はぐれるなよお前ら。後がめんどくさい」 「今日は大晦日やしなあ。カウントダウンもあるしねえ。きっと家ん中は空っぽになっとるんやろうねえ」 「とりあえずなんか食おうぜえ。もう、俺腹減った」 「はは、紫晃が熾志みたいなこと言ってるぅ」 本当にはぐれそうな人込みだった。ごった煮、と言ってもいいかもしれない。立ち止まれるのは露店の前の僅かなスペースで、それだって客で埋まっている。所々にあるぽっかりと開いた空間が、休憩場所になっていた。大人三人、子どもが二人の一向は、はぐれないようにお互いの姿を確かめながらその中を流れていた。 「今日もあの子来てるかな」 露店で買ったドーナツを開いた空間で食べている時、サリスが思い出したように口にした。 「あの子って?」と肉の塊から顔を上げた熾志が問う。 「最初の日にね、お祭りに来た時、女の子に会ったの。あと男の子。ライアっていう子と、エミリオっていう人。ライアはとっても可愛い子でね、すっごいキレイだったんだよ」 「それって言葉おかしくねーか?」 「ふふ。サリスの周りにはあんまり同い年位の子がおらんかったさけ、嬉しいんよ」 「確かにそうだな。ルースなんかも、ああ見えてもう……幾つになんだ?」 同僚の子どもの姿をした先輩を思い浮かべる。そういえば、正式な年齢を聞いたことがなかった。 「そやねえ。私の後に来たけど……幾つなんやろねえ」 にこにこ笑う霧亜の年齢も、充分謎である。自分がここに来て既に五年ほど。いくら成人に達してからの外見がそう変わるものではないとはいえ、霧亜にはあまりにもその変化がない。究極の『年上の彼女』かも知れない。 「つまりは、サリスが一番子どもってことだな」 ニヤニヤ笑って頭に手を置くと、あっという間に払われた。 「子どもって言わないでよ。ちゃんとお仕事してるんだから、子どもじゃないよ!」 「確かにそやねえ。私らと、命を賭けたお仕事ちゃんとしてるもんねえ」 霧亜がすぐに船を出す。そーだよね、とサリスは我が意を得たりとにんまり笑う。 「あの仕事には年齢など関係ないだろう。ただ個人の腕によって、その成否と命が左右されるだけだ」 素っ気無く言った洸流は、面白くなさそうに素焼きにカップを傾ける。 「身も蓋もないよな、その言い方。もうちょっとさあ、うまい言い方できないの?」 「だったらてめえはどう言うんだ?」 「うえっと………………なあ、サリス、そいつらってどんな奴らだったんだ?」 冷や汗を流して、熾志があっという間に話題を変える。言語的問答が苦手なのだ。 「ライアとエミリオのこと? あのね、なんかね不思議な人だったよ」 夜空を仰いで、サリスは言った。 「ライアはね、とても明るい子だった。まるで太陽みたいに輝いていた。金色の髪で、膚も白くて、金色の瞳で。でも、目を瞑ってても、見ていなくても、輝いているのが分かったの。不思議でしょう」 嬉しそうに笑う。 「エミリオは、ちょっと近付きがたい感じの人だったよ。濃紺の髪をしててね。顔はお人形さんのようにキレイだった。すっごく鋭い気配をしてたんだよ。でもね、ライアを見る目はすっごく優しかったの」 ふ、と紫晃は気が付いたことがあった。二人の話しをするサリスの表情を見ていて。その話し振りは、まるで長年の友人の話をするもののようだということを。本人はまだその表情の意味に気付いていないようだった。数年前、霧亜が拾ってきた少女。最初は全く感情というものを示さなかった少女。今では誰よりも元気で明るい少女。そして、自分の立地点である記憶を全てなくしてしまっている少女。そんな彼女が、こんな表情をして喋るのを、紫晃は初めて見たのだ。 「サリス」とそのことを告げようかどうか、決めたわけではないのについて出そうになった言葉は、突然の耳鳴りに強制的に止められた。 「何だこれ」 苦痛を漏らしたのは熾志であったが、表情を浮かべたのは全員だった。誰もが両手で耳を塞ぎ、苦痛を顔に浮かべる。持っていたものが一斉に落ちて、素焼きのカップが音を立てて割れた。 その耳鳴りは一瞬と言ってもいいくらいの短さだった。だが、それが与えた衝撃は強く、しばらくそこから浮上できなかった。 「な、何だったんだ? 今の?」 「耳鳴りと言うよりも、変な振動のようだったが……」 まず復活したのは紫晃と洸流だった。額に手を当てながらも、顔を上げ、辺りを見回す。 「どうやら、今の振動を感じ取ったのは俺達だけのようだな」 通りを歩いている人々の、誰もが何もなかったように笑みを浮かべている。 「おい、大丈夫か? 霧亜!」 「あ……うん、大丈夫。びっくりしたわあ。何やったんやろ」 しゃがみこんでいた霧亜が、頭を振りながら立ち上がる。 「急に立ち上がるなよ。倒れるぞ」 早鐘のように激しかった心臓が、霧亜が浮かべた微笑を見て、ゆっくりと鎮まっていく。 「そないやわには出来てへんよ。それより、私なんかよりも……」 霧亜の視線を追う。霧亜と同じように上体が崩れていた熾志は、顔をしかめて頭を振っている。問題は…… 「サリス!」 熾志の目が大きく見開かれた。地面に倒れていた小さな身体を瞳に映して。 「大丈夫か? サリス!」 慌ててその身体に駆け寄り、抱き起こす。 「あまり揺さぶるな」 その側で、落ち着いた洸流が脈を取る。 「洸流はん、どうや?」 「……脈拍に乱れはない。とりあえず戻るぞ」 言われた熾志が、立ち上がろうとしたのを止める声があった。 「その必要はない」 その言葉に、誰もが驚きの表情を浮かべた。サリスを抱えた熾志が一番何が起こっているのか分からない表情で、腕の中の少女を見ていた。 「ふむ。どうやらとうとう起こってしまったようじゃの」 「……何ふざけてんだよ、サリス」 やっと口を開いたのも熾志だった。相手は、年老いた老人のような声で、年老いた老人のような喋り方をする腕の中の少女。 「ふざけてなどおるものか。時間がない、どれ、お前さん達に協力を仰ぐとするかのう」 呆然とする熾志の腕から立ち上がると、そのサリスの姿をした何者かはぐっと伸びをして、簡単に身体を動かした。まるで、自分の身体の大きさなどを確かめるように。腕や足を動かすたびに、ふむふむ、と年寄りのように頷く。 「あんさん、何者なんですか?」 霧亜が代表するように口を開いた。サリスの中のその誰かは、年寄りのような笑みを浮かべて言った。 「ワシの名はアルケー。地水火風空の五元素の王であり、全ての源である」 その瞬間、世界が震えた。が、それに気付いたのは僅かばかりの者であった。気付き、なおかつそれが世界の危機を告げていると分かったのは、その中でも極少数の者であった。その少数の内に、彼らは含まれていた。 「な、何だったんだ? 今のは」 渇いた声で辛うじて言葉を紡いだシオンの顔は、全く血の気が引いていた。元々白い顔が、血の気が失せて青白くなっている。唇から血の色は失せ、目は見開かれ、かたかたとかすかに震えている身体には、怖気立つ冷や汗が、つぅ、と流れていた。 「恐れていたことが、起こったようですね」 その場にもう一人いた男が、やはり蒼ざめた顔でそう口にした。 「一体何が起こったというんだ? 何だこれは」 震える声で、それでも懸命に言葉を絞り出す。いや、言葉を紡ぐことで自分を保っているのだろう。口を閉じてしまえば、そのまま倒れて消えてしまうような、そんな恐怖が彼の身体を包んでいるのだろう。それが手に取るように分かったのだが、それに触れるほどこちらにも余裕はなかった。 「世界の終わり、簡潔に言えばそうなりますか」 ざわざわと身の内から這い登ってくる暗い影を押し込めながら、軽口を叩く。 「終わり?」 「正確に言えば、これから終わる。世界に終わりを齎す者が、今宵復活する、しようとしている」 「終わり? 齎す者? それは誰だ? 分かっているからそう言っているのだろう? もったいぶらすな」 「驚きますよ」 「もう、充分驚いている」 「……竜文明最後の皇帝、光輝帝」 シオンは絶句して、相手の顔を見た。その男、翠戒は、厳しい目をして遠くを見やった。その目は広大な書庫の天井ではなく、その向こうの何かに向いていた。 「何なんだよ、お前は! サリスに身体を返せ!」 熾志が怒気を持って迫るが、サリスの身体に入ったアルケーというらしい老人は、ニヤニヤと笑うだけである。 いきなりアルケーと名乗ったサリスに、初めは誰もが気が狂ったかと思った。が、そうではないらしいということもまたすぐに分かった。それを最初に気付いたのが霧亜であり、熾志であった。二人の言葉にアルケーと名乗ったその何者かは、ニヤニヤと笑い、近くにあった木箱に腰掛けた。それを全員で取り囲むが、何をどうしていいか分からない。その中で声をあげたのが、熾志であったのだ。 「返してもいいが、そうしたら世界は滅ぶぞい」 「何言ってんだよ、ワケわかんね」 「ふむ、思ったよりも単細胞だわい。どれ、そうじゃの、そこの娘さんがええの」 「私?」 指名された霧亜が、目を丸くする。 「娘さん、あんたは宿主じゃのう。その身の内から、多くの精霊の気配がする」 「ええ、そうです。私は身の内で精霊を飼う者でございます」 「やはりのう。ふむふむ……のう、変な気配がするじゃろう」 「あなた様から?」 「ワシからじゃない。この島全体、いや、すべてを取り巻く空気から。するじゃろう?」 ええ、と霧亜は頷いた。そんなこと分かっている、とその場の誰もが思ったが、口には出さなかった。 「世界が終わろうとしておるのじゃ」 あっさりと言う。 「だから、何なんだよ、それは!」 熾志が声を荒げる。 「落ち着かんか。全く、心を落ち着けねばうまくいくこともいかんぞ」 「いきなり世界が終わるなんて言われたら、普通落ち着いてられねえだろ、爺さんよ」 「確かに、紫晃の言う通りやね。詳しく話を聞かせてもらえまへんか?」 「もちろんそのつもりじゃ。当てにしとった者達が、今手が離せんようじゃしの」 「当てに?」 そう、とアルケーは重々しく頷いた。 「どいつらだよ」 「ふむ。今は七色と名乗っておるようじゃが、そうじゃの、七人の竜眼持ちと通っておるのかの」 「りゅうが……」 さすがに誰もそれ以上の言葉を継げなかった。開いた口が塞がらない、とはまさにこのこと。 「そう、お前さん達にはあれらの代わりに働いてもらう。世界が終わりを迎えんようにの」 「俺達に、そいつらの代わりに働けってか?」 そうじゃ、とアルケーは首肯する。 「無理だよそんなの。だって、俺達……」 「臆するか? 魔狼族の男が。怯懦は最も忌み嫌われるものであろう?」 「そうだがな。しかし、出来るものと出来ないものがあるだろう。七人の竜眼持ちの代わりが俺達に務まるとは、とても思えないがな」 洸流が口を挟んだ。しかし、アルケーは大真面目に言う。 「しかし、務めてもらわんと、世界が終わるぞ。それでもいいのかの?」 「無茶苦茶だなあ、爺さん。それじゃあ俺達がやるしかないじゃねえか」 「最初からそう言っとる。お前さん達が働かねば、世界は終わる」 当たり前のことのようにアルケーはそう言って、口を閉じた。誰もが押し黙ったまま。通りの雑踏の音が、やけに耳につく。 「……それで、何から私らは世界を守ればええんです?」 覚悟を決めたように口を開いたのは霧亜だった。全員の視線が彼女に集中した。 「やっぱり、女は決断が早くていいのう。他の者も、彼女に従うかね?」 熾志、洸流、紫晃。三人の男達はそれぞれ目配せをして、 「それが終わったら、サリスは無事に戻ってくるのかよ」 不貞腐れた子どものように熾志が訊く。 「無論。それが終われば世界は元通りになり、ワシは用がなくなって去るのみよ」 「だったら、俺、手伝うよ。竜眼持ち達の代わりをしてやるよ」 「ふむふむ。お前さん達はどうかの?」 「もともと選択権はないんだろ」 「しょうがねえから爺さんに付き合ってやるよ」 アルケーはにっこりと笑うと、フードをかぶった。 「急ごう。思いのほか時間を喰ってしまった」 木箱から降り、足を通りに向ける。 「で、結局私らは何を相手にするんですか?」 アルケーが振り向いた。口が開く。 「光輝帝じゃよ。竜文明最後の皇帝。七人の竜眼持ちが封じたもの。その欠片と、それを再び復活させんとする歪のものだ」 その言葉に、誰もが自分の決意を後悔した。が、もう後戻りは出来ない。 |